過去の未公開記事を公開!
四季折々の日本中を遊び場にして、自由な外遊びの楽しさをお伝えしているこの連載。
ありがたいことに、大変ご好評いただいているのですが、実はタイミングがずれてしまい、掲載出来ていなかった記事があります……。こんな時だからこそ、お読みいただきたい! というわけで、未公開の記事を一挙公開していきます!
今回は、昨年の梅雨時期に、渓流釣りとキャンプを楽しんだ様子をお届けします! 釣り場で声をかけた方が、FLEXランクルユーザー様だったというミラクルが起こっています! こういった偶然の出会いがあるから、旅って面白いですよね〜。(by リノカジャーナル編集部)
日本発のフライフィッシングエリアを目指して
華やかな金曜の夜を楽しむことなく帰宅を急ぎ、渓流釣りの道具を取り出して整理をした。時間を費やしながら丁寧に、そして若干の緊張感を覚える。冬の間潜めていた渓流釣りの感覚を体が思い出そうとしているようだ。道具をひとつひとつ並べていく度に、毛バリに飛びつく渓流魚の姿が鮮明に思い起こせるようになっていった。渓流魚は水面を叩く雨の雫とエサを間違えることない。水量が安定する梅雨の弱い雨なら、渓流釣りには好条件に働いてくれるだろう。
目覚まし時計を朝4時にセットしていつもよりも早めに布団に入った。朝一で目指す場所は、奥多摩湖の東側に位置する大岳山の麓、あきる野市の養沢毛鉤専用釣場だ。約4キロの自然の川をそのまま活かした、フライフィッシングとテンカラ釣り専用の管理釣り場で、戦後の占領政策を行っていたGHQで来日していた米人法律家トーマス・レスター・ブレークモア氏が、故郷のオクラホマで嗜んでいたフライフィッシングを日本人にも楽しんでもらえるように開拓した、日本で初めての作られたフライフィッシング専用エリアである。
釣り人は朝が早い
太陽と共に目を覚ます渓流魚がまずやることといえば、朝ごはんを食べることだ。その朝食タイムに合わせて釣り人は我先にと竿を出す。そしてその前に、有料釣場での釣り券を求めて、朝6時からの受付を待てずに多くの太公望たちは受付小屋のテラスでウェーダーに着替え、逸る気持ちを抑えきれずに竿先に毛バリを結び付けていた。渾身の力作とはいえ、毛バリは所詮イミテーションだ。偽物だとバレるかどうかは神のみぞ知る所存だが、その駆け引きがまた毛バリ釣りの醍醐味だったりする。
情報戦を制すれば勝利は自ずと我が手に
今年初釣りとなる私は、自然の川とはいえ養殖の渓流魚を放流している管理釣り場という余裕に身を任せて、まずは情報収集に励む。受付の竹縄さん(この付近でよく聞く苗字)が全体の地形から、魚の種類、魚が居付きやすい場所、そして本日の客数など、会員カードとポイントカードを新規発行しながら優しく解説してくれた。
魚はニジマスが主体で、ヤマメやイワナ、ブラウンなどが混じるらしい。中でも尾びれの手前にある脂びれを切り落としたヤマメを釣り上げた人には、特別なバッジのプレゼントがあるとのことだ。下流域は初心者でも竿を振りやすい開けたチャラ瀬で、上流は木々やブッシュが多いゴーロ帯での釣りになるらしい。ならば私は迷わず上流だ。難しい釣り場ということなら釣り人同士の縄張り争いも少ないだろうと予想した。
ちなみに私の情報収集による戦略的な釣り場の選定は、後にまったく無意味だったことがわかった。なんせ木曜日に養殖場から放たれた右も左もわからない純粋無垢の渓流魚たちは、「ここ」というポイントで一切の疑いをもつことなく毛バリに飛びついてくるのである。先行者がいようがいまいが関係ない。ある程度の竿さばきができていれば誰でも楽しめる釣り場だったのだ。ならば先人達のように、四の五の言わずにさっさと川に下りるべきであった。
人気の週末は5~60人もの入渓者
ニジマスの力強い引きを楽しみながら順調に釣り上がっていると、先のポイントから入っていたと思われる3人組のフライマンに追いついていた。まだ時間は早かったが、彼らもそれなりに満足できる釣りを楽しめていたようで、和やかに会話が弾んだ。
「ここは東京からも近いので、人気が高まる4~5月の週末は5~60人は入りますよ。それでも沢の規模が大きいので、他の釣り人があまり気にならないのがいいですね」と話してくれたのは、埼玉から来たという中村成臣さん。フライフィッシングを始めて3年目になるという彼は、なんとFLEXユーザーで、80年代に発売されたランドクルーザー60のオーナーだった。話はさらに盛り上がり、竿さばきも服装もかっこよくキマッている中村さんにモデルになってもらい、シャッターを切らせてもらった。
お昼は沢から上がって別の用事が済ませられる余裕がいい
魚との遊びに没頭していると、あっという間にお昼時になっていた。初めての釣り場ということもあり、ザックの中にはバーナーとコッヘルとカップラーメンの用意はしていたが、すぐに上が県道だったので、せっかくなら地元の旨いものを食べようと一度沢から上がることにした。どうせならキャンプ場が混む前に場所取りだけでも先にしておいた方がいいだろうとも思える。何かと利便性が高い釣り場ならではの余裕が、梅雨時期の週末遊びには心地よかった。
今日のお宿に選んだ大岳キャンプ場は、昭和36年に発見された鍾乳洞を敷地内にもつ珍しいキャンプ場だ。鍾乳洞入り口の受付小屋を挟んで、下流と上流のそれぞれにキャンプサイトがあり、スマホも圏外になる深山の静けさが楽しめるのが魅力でもある。
さっそく受付を済ませて上流サイトの良さそうな場所にタープを設置した。雨が上がることはないだろうと予想し、タープの片側は木を利用してテンションを張り、もう片側は雨の強さに合わせて高さを変えられるようにポールを立ててペグダウンにした。これなら例え暴風雨になってもタープが飛んでしまうことはない。車もすぐ近くに置けるので、寝る時だけ車中泊でもいい。
地元の方なら誰もが知る肉の名店へ
自然の中のリビングが完成したところで、入り口にあったカフェがオープンしていた。下の受付小屋にいた若いご夫婦のご両親ということで、週末はここで管理を手伝いながらカフェを開いているとのこと。さっそく地元で肉や野菜が買える場所の情報を聞いてみた。
「野菜は今の季節なら釣り場受付でも温泉の物産店にもたくさん置いてあるよ。肉は五日市駅前にある大黒屋という精肉店がいいだろうね。たぶん驚くと思うよ」と、意味深な情報を頼りに五日市の大黒屋精肉店に向かった。
キャンプ場から五日市駅までは、クルマで約30分。駅前の交差点を曲がったすぐのところに、どこにでもありそうな店構えの大黒屋精肉店を見つけた。店内にはすでに地元の方らしい数人のおば様たちがいる。店内に入ると、「この店はどこにでもある精肉店ではない」ということにすぐに気が付いた。
客が立てるスペースは狭く、カウンター越しの調理場はとても広い。肉は注文を受けてからその場で切り分けるスタイルで、肉が貯蔵している奥の冷蔵庫からは、スーパーではなかなか見ることのない大きな塊肉が出入りしていた。
「うちは創業90年だよ。都内では一番古い精肉店じゃないかな」と大きな声で接客してくれたのは、肉一筋で営んできたという大黒屋2代目の私市(キサイチ)ブラザーズ。店内にいた地元のおば様も「私は40年通っているけど、他の肉は食べないよ」と絶賛だ。
「この肉の色を見てくれよ。最高の色だろ。うちは俺たちの目に適わない肉は仕入れないんだ。今日はキャンプか? ならこのハラミとカルビと牛タンにしなよ。ぜったいウマイからさ」と、私市ブラザーズの弟さんに言われるがままに注文した。
「こういう肉は見たことあるかい。市場でも最上級の豚肉さ。脂の旨味がちがうよ」と、写真でしか見たことない大きな豚肉を冷蔵庫から見せてくれたのが、私市ブラザーズのお兄さんだ。
この二人、タダモノではない。
夜の酒は地元の日本酒で
最高の食材をゲットして大満足の帰り道に、「やまざき酒舗」と文字に引き寄せられて雰囲気ある建物の駐車場にクルマを停めた。レストランを併設した人気店らしくで、店内にはコース料理に舌鼓を打つ客でいっぱいだ。奥のカウンターには日本酒が並んでいて、ちゃんと酒の販売もしている。
「せっかくなら地元の酒蔵のお酒はいかがですか? いまなら夏限定の生酒がおすすめです」というお店の方の言葉に従い、今宵の楽しみもゲットした。
釣りはほどほどに夜の時間を楽しむ
地元ならでは情報でゲットした最高の食材と酒をもってキャンプ場に戻り、沢の冷たい清流を利用して冷やすことにした。まだ太陽は高く、もう一度釣りが楽しめそうだったので、16時までと時間を決めてまた沢に下り立った。今日も多くの釣り人達が竿を出しているはずなのにもかかわらず、魚たちは一生懸命に毛バリを追いかけて楽しませてくれる。しっかり管理されている釣り場ならではの醍醐味だ。
数匹の愛くるしいニジマスの顔に釣り欲も満たされたので、早めに上がって夜の時間を楽しむことにした。焚き火と贅沢なお肉、地元の野菜に、地元の酒がある。これ以上何が必要だろうか? 雨はシトシトと振り続けていたが、タープを叩く雨音も心を癒すBGMのように思えた。
朝から滝と鍾乳洞を見てまわる
タープを強く叩く雨音で目を覚ましたが、夜が明けると共に雨足も弱まった。梅雨の影響か、森の木々の色が濃くなったような気がする。今日は温泉に入って帰るだけなので、午前の時間を使って、大岳山登山道の途中にある大滝と鍾乳洞を見に行くことにした。
大岳山登山道の入り口まではクルマで約5分。大滝までは300メートルと道標に書いてあった。手ぶらで登山道に入り途中の道標に従って森を進むと、20分も経たないくらいで大滝に着いた。
高さは20メートルくらいだろうか。清流をひとつに集めて豪快に吐き出している姿はなかなかの迫力で、滝壺まで入ることもできそうだったので近くまで立ち寄って見上げてみた。
木々に囲まれた空の穴から水が噴き出しているようで、これがマイナスイオンってやつですか? と癒されながら下山。鍾乳洞に行く途中に小滝というスダレ状の滝もあったので、クルマを停めて見てみたが、やはり大滝の方が迫力はあった。
鍾乳洞は600円を支払い、ヘルメットをお借りして、受付の横の階段を上がると怪しい入り口がぽっかり口を開けていた。中からはひんやりとした空気がもれていて、いかにもな雰囲気が漂っている。全長は約300メートルの周回コースになっているらしく、ほぼ中腰で進んで行く。途中途中に灯りと共に案内板があるので迷うこともないだろう。途中の「ウミユリの化石」という案内があり、必死に探して「これか?」というのを見つけた。後で調べてみると、約2億5000万年前の地層で見つかる化石らしく、関節をもたないウニやヒトデと同じ棘皮動物とのこと。今も深海にいるらしく、生きている化石の異名をもつ希少生物らしかった。
ヌルヌルの極上温泉で癒される
大岳キャンプ場は昔、腰の曲がったおばあちゃんがひとりで営んでいた。もう20年も前の話だ。そのおばあちゃんは3年前にお亡くなりになり、今は彼女の孫夫婦が運営し、娘夫婦が上流サイトのカフェを開いている。昨今のキャンプブームで多くの人が訪れるようになったが、私が通っていた頃は誰も知らない山奥のキャンプ場で、鍾乳洞を見に行く人なんてほとんどいなかった。利用者が増えて寂しい気もするが、貴重な自然遺産に触れられるということは、自然の歴史を知り、畏怖し、そして守ることのきっかけになると考えている。
そんなことを考えながら、肌にヌルヌルとまとわりつく心地よい瀬音の湯を楽しんだ。都会の喧騒に削られた心のキズが癒されていくのがわかる。こういう週末の時間は大切だ。
沢の中で出会ったFLEXユーザーの中村さん
たまたま声をかけた釣り人がFLEXユーザーって、奇跡でしょ? せっかくなのでお車を見せていただいた。
89年式ランドクルーザー60。購入時すでに10万キロを超えていたらしいが、車検を2回済ませた今でも、一切のトラブルなく快調に走ってくれているという。
「自営業なので自分の時間はある程度自由に作ることができます。仲間も山好きが多く、山登りやクライミングもやります。フライフィッシングを始めてから自由な時間が本当に充実するようになりましたね」という中村さんのライフスタイルに、大人の男としての魅力あふれる充実感が、確かに伺えた。