今度の旅の思い出は、便利なスマホではなく、50mmレンズで撮ってみよう!
誰でもすぐ、簡単に、きれいに、スマートフォンで写真を撮れるようになった今日。日常でのささやかなシーンはもちろんのこと、旅先でも、そこで出会った人々や景色、ご当地グルメ、大笑いした瞬間……などなど、何でも記録しやすくなりました。本当に便利ですよね。
だけど、みんなが気軽に写真を撮れる時代だからこそ、「本格的なカメラを携えて旅をしてみたい!」と思っている方も、多いのではないでしょうか? 特に、車で行くアウトドア旅では、普段なかなかお目にかかれない絶景に巡り会ったり、自然に触れたりと、思い出に残したい特別な瞬間がたくさん訪れそうです。
アウトドアの達人である源流師・金田剛仁さんも、アウトドア旅のお供には「50mm単焦点レンズ」がおすすめとのこと。「シンプルに立ち返り、不自由を楽しむ」ことが魅力の50mmレンズ。アウトドア旅にも共通して言えることですね。
今回は、50mmレンズの魅力を、たっぷり語っていただきました! 皆さまの、新たな旅の楽しみに繋がったら嬉しいです。(by リノカジャーナル編集部)
50㎜レンズの世界こそ旅の醍醐味
どんなことも慣れてくると、シンプルさを求めるようになる。最初はいろんなことに手を出し、お金を使いながら迷走すること自体を楽しむ人が多いが、大抵、いつの間にか「軽さこそ正義だ!」だの、「不自由こそ楽しい」なんて言いながら、知識や経験での勝負を楽しむようになる。私も実際そうだったからよくわかる。だからこそここで提案していこうと思ったのだ。
軽くてシンプルな50㎜単焦点レンズの世界こそ、旅の醍醐味ではないかと。
50㎜レンズとはそもそもなんだ
カメラの世界には「50㎜に始まり、50㎜で終わる」という格言がある。どっかで聞いたことのある言い回しの二番煎じだが、カメラ業界ではこの考え方がかなり深いところまで浸透しているのだ。なぜか? これを説明するためにはレンズの基礎知識をだらだらと語らなければならないが、簡単に言ってしまうと、人が見ている視野に近いと言われるのが50㎜だからだ。これが50㎜単焦点レンズを『標準レンズ』と呼ぶ所以でもある。(※レンズのミリ数:レンズからセンサーまでの距離)
ただ実際には、人の視野はもっと広い。またこの視野の感じ方は人によって違うので、よく35㎜レンズが良いのでは? と言う話も出る。そして視野ばかりを追求していくと、40㎜レンズや42㎜レンズといった細かい話になり、結局なんなのだ? ということで話は結局最初に戻るのだ。
50㎜レンズがおすすめの理由
とどのつまり、好きなレンズを好きな時に使えばいいのだが、私がこの国立公園の旅を50㎜レンズの世界で捉えたいと考えた理由が3つある。とくに本格的なカメラやレンズの購入で迷っている人に参考にしてもらいたい。
1、値段が安い 2、重量が軽い 3、本気になれる
カメラレンズには大きく2つのタイプがある。単焦点レンズとズームレンズだ。単焦点レンズは今回の旅から使用している50㎜単焦点レンズのように、ファインダーの中の景色の大きさがひとつだけしかないレンズのこと。ズームレンズはそのままの意味で、ファインダーの中の景色の大きさを変えられるレンズを指す。
単焦点レンズは、最初に決めた距離からレンズを動かす必要がないので作りがシンプルだ。逆にズームレンズは、内部レンズを前後に動かすことで景色にズームインしたり、逆に景色を広く映したりできる。よって内部はたくさんのレンズで構成され、形も大きくなる。
そして使われるレンズのクオリティによって光の透過性能が異なり、当然ながら高い技術で作られたクリアなレンズほど、光の屈曲や劣化が少なく、ピュアな状態で光をカメラのセンサーに届けることができるのだ。この光を集めるレンズ性能を「開放値(F値)」と呼び、表記されている数値が低いほど、光に対するレンズの「感度が優れている」ということになる。そして感度が高いレンズほどたくさんの光を焦点に集めることができるので、写真の魅力のひとつでもある「ボケ感」の演出ができる。
さて、作りがシンプルな単焦点レンズと、たくさんのレンズを組み合わせるズームレンズを比較した場合、最大開放値が同じ性能ならどちらのレンズの値段が高いだろうか?
同じクオリティのレンズなら、使われているレンズの枚数が少ない方が、値段が安いのは当然の話だ。そしてレンズの枚数が少ないということは、大抵の場合、軽いということになる。
軽さと安さ。この2つの要素は、カメラ装備をできる限りシンプルにできるので、ロードトリップを純粋に楽しみつつ、その思い出をより素敵な写真として残すことに貢献できるはずだ。
実際の写真はどれほど違うのか
単焦点は明るく、ズームレンズは楽だ。どっちを取るかはその人の自由だが、最初に述べたように、誰もが経験を重ねるにつれて、シンプルに機能を追求するようになる。「楽」というのは意外と中途半端なものだったりするもので、本当に求めたいのは、経験で補えない道具の機能だと感じるようになるはずだ。「経験と機能」このふたつが合わさることで、より高い次元に突入できるのだ。
ではここで実際の写真がどの程度違うのかを比べてみよう。
ね! ぜんぜん違うでしょ? とても明るくシャープに映る。これが単焦点レンズの一番の強みではないだろうか。とにかく明るい昼間から夜の暗いシーンまで、「あ、この風景を撮りたい」と思ったその瞬間にカメラを手にすることができるのだ。
ちなみに今回使用したレンズは、CANONの以下2本。
・EF24-70mm F2.8L Ⅱ USM 定価230,000円(税別)
・EF50mm F1.4 USM 定価55,000円(税別)
さぁ、あなたはどっち?
旅の写真は記録ではなく、記憶を表現するもの
そして、私が一番重要だと考えている理由は、3番目の「本気になれる」だ。
記憶に残る景色というのは、目に映るすべての視界のことではなく、意識的に両目で焦点を合わせてしっかりと見つめた対象のことだと考えている。まわりの景色は、実はそれほど重要ではないのだ。
ファインダーに切り取られた限定的な世界に不安を覚えるかもしれない。ついつい後ろに下がって広い景色を撮っておきたいという衝動に駆られるかもしれない。だけどそれらをぐっと堪えて、逆に一歩前に踏み出してみてほしいのだ。そうすれば本当に見たいと思える世界をファインダーの中で見つけられるのではないだろうか。