インドア派VSアウトドア派
アドベンチャーレースに出合って23年、チーム・イーストウインドの活動の手伝いを始めて19年が経った。それまでは自動車部品メーカー会社に勤め、海外への進出や合弁に携わっていた。テントで寝たことすらなく、趣味は読書、映画鑑賞、音楽鑑賞。つまりアウトドアとは対極に位置する超インドア派。のちに夫となる田中正人とは、まったく異なった世界にいた。
1997年1月。「通訳だけしてくれたらいいからさ」と半ばダマされた(?)形で、レイドゴロワーズ南アフリカ大会にチーム・イーストウインドのアシスタントとして同行した。
何もかもが新鮮で、危なくて、凄まじかった。そして何より人間の強さを目の当たりにした(そこから何がどうなったかは『アドベンチャーレースに生きる!』(山と渓谷社)を読んでいただけたらと思う)。
それがきっかけとなり、吉永みち子さん(『気づけば騎手の女房』集英社文庫)さながら『気がつけばアドベンチャーレーサーの女房』である。
アドベンチャーレース&日常生活
インドア派がウルトラアウトドア派のアドベンチャーレースを観ておもしろいの?
はい。十分におもしろいです。
いや、おもしろすぎるんです。
なぜなら、レースを通して見える事がすべて実生活に繋がっているから。
例えば、「チーム競技=人間関係」「男女混成=社会生活」「複合種目=得手不得手もこなさなければならない」「体力・技術の差=経験や学歴差」などなど、似ている事が多い。
強者が弱者を支え、経験者が未経験者を導き、不得手なものを得意とする者が補いゴールを目指す。
アドベンチャーレースは日常生活をぎゅっと凝縮して体現化している。
Chemistry
以前、アメリカから友人が遊びに来た。当時、彼は有名な経営コンサルタントの会社に勤めていた。
彼に「チームを構成するのに大切な事って何?」と聞いてみた。
彼は「Chemistryだよ」と言った。
Chemistry。日本語で意訳すると「化学反応」となるだろうか。
アメリカで、最弱と言われたプロバスケットボールチームがあった。
あまりの弱さに、コーチは強い若手選手を発掘し、猛練習をした。そしてそのチームは強くなった。
強くなればなるほど、もっと強い選手が他のチームからやって来た。
やがてそのチームは「アメリカ史上最強」と呼ばれるほど強い選手に恵まれた。
が、なぜだか勝てない。
個人個人はものすごく力があるし、技も凄い。が、勝てないのだ。
そこでコーチはもう一度チーム全体を観察した。そして気がついた。化学反応がうまく起きていないことに。
どの要素(選手)が化学反応を邪魔しているかを見定めた結果、チームでも最も強いと言われる選手が邪魔をしていた事が判った。コーチはその選手を外し、ランクの低い選手を入れた。
コーチの判断は正しかった。そのチームは見事な化学反応を起こし、その年は優勝した。
友人は言う。
「チームメンバーを選ぶのはChemistryが一番大切なんだ。リーダーもしくは監督はそれを見極める判断力が重要だ」
昨今の世界的アドベンチャーレースでは男女混成4人1チームが主流だ。
4人とは何とも難しい人数だ。奇数であれば物事を多数決で決めることができる。数が多ければ意見や個性がボヤけてしまう。中に強い人間がいれば、その人間の意見になりがちだ。殊に日本人においては《忖度》がうまい。
しかし4人という人数(要素)は絶妙とも言える。
4人であれば化学反応が明瞭に起きる。ボヤけることも誤魔化すことも逃げることもできない。欧米に比べると体の小さい日本人だが、4人の化学反応がメラメラ燃えて出る力がひとつになった瞬間、とてつもなく凄まじい反応を起こすことがある。
その瞬間は、レース観ている側をも奮い立たせる。だからこそアドベンチャーレースはおもしろい。
新たな化学反応が始まる!
今までに多くの選手がチーム・イーストウインドに来てくれた。
その都度起きる化学反応はいつも異なり、驚かされた。
アドベンチャーレースを始めて26年。時には激しく、時にはくすぶり、時には力強く反応を起こしてきた田中正人は、今ではかなり異なる原子となった。
23年間ずっとその反応を見続けてきたが、彼はとても柔らかく穏やかな、それでいてなお強い原子に進化しているように思う。
昨年マチマチ(西井万智子)が引退し、ヒロシ(生田 宙)がやって来た。そして今年はロータス(小濱 廉太郎)、テツ(小倉 徹)が新たに加わった。熱い原子が加わったことで今後の化学反応がとても楽しみだ。
人はひとりでは生きてはいけない。必ず誰かと関わりを持つ。時には辛いこともある。しかし、それは己の原子を進化させるための化学反応であり、いつかはどんな状況でも受け入れらえる柔軟な原子となるためのものなのだ。
と、超インドア派はアドベンチャーレースを観ていて思うのである。