Renoca by FLEXRenoca by FLEX

2023.3.22

%e2%91%a0-%e3%83%a1%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%a4%e3%83%a1%e3%83%bc%e3%82%b8%ef%bc%9agz_trek-packraft

【Vol.90】見えない選択肢

2023.3.22

連載:Renoca Adventure

今回は一つの詩を紹介したい。有名な詩人の作品なので既に知っている人もいるかもしれない。 しかし、ニュージーランドGODZoneを終えて日本に帰ってきた今だからこそ、この詩から感じたことを共有させてほしい。

選ばれざる道

アメリカの詩人 ロバート・フロストの有名な作品 『The Road Not Taken (選ばれざる道)』だ。 翻訳はネットで検索すれば色々出てくるが、どの訳がベストなのか選ぶことができなかったので各々で検索して欲しい。一応、詩の流れだけ紹介すると…
「黄色く染まった森の中で一人の旅人が道の分岐に立っている。どちらも同じに見える道だが、より踏み均されていない草の茂った道を選んだ。そのことが大きな違いを生んだ。」
という内容だ。こうやって要約すると詩の旨味が無くなってしまうので是非とも全文読んでほしいのだが…問題は、この詩を読んでどう感じたか、だ。

感じるものは人によってそれぞれだが、多くの場合は以下のように捉えたかもしれない。
「人が選ばない道を選択しなさい。それが人生における大きな違いとなり成功への鍵となる。」
人が選ばない道、場合によってはより困難な道こそ成功への道だ。という人生の教えだ。あるいは、I could not travel both(両方の道を選ぶことはできない)という点に人生における選択の難しさを再認識して物思いにふける人もいるかもしれない。最後の I shall be telling this with a sigh(ため息まじりに語り続けるんだ)という部分に、これはどういったため息なのか考察する人もいるだろう。より踏み均されていない道を選んだことが大きな違いとなったとあるが、これが良い結果を生んだ満足のため息なのか、大きな失敗となって後悔のため息をついているのか、詩はどちらとも解釈することができる。

アドベンチャーレーサーの選択

GPSトラッキング

では、アドベンチャーレーサーである私はどう感じたか。 まず考えるのは、「レース中だったらどうするか?」だ。そうなると、もはや「どちら」ではなく「どう行くか」が大事になってくる。目的の場所へ行くには第3のルートを開拓(つまり藪こぎ)が当たり前だからだ。 藪こぎが難しくトレイル上を行くしかない場合でも選択は簡単ではない。遠回りでも走りやすいルートの方が早いかもしれないし、一見歩きにくそうでも少し先からは歩きやすくなるかもしれない、トレイルが途中で無くなるかもしれないし、時間がかかるルートでも水の補給をできる方が助かるかもしれない。

そんなことを考えながら思い出したのは、今回のGODZoneで見た地元アドベンチャーレーサーの戦い方だ。 彼らは、滞在時間が3時間と制限されたTA(トランジションエリア:次のセクションに入る前に装備の変更や補給・休憩を行う場所)で無理に仮眠せずに、TAを出たすぐ先でテントを張ってゆっくりと仮眠を取っていた。 我々は3時間の中で無理やり90分の仮眠を取ってバタバタとTAを出たのに。 パックラフトを置いて身軽なトレッキングで進むか、川を漕いで行くかわりにその後のトレッキングでパックラフトを背負って行くか選択できる場所で、パックラフトを持っていく選択をしたチームが多数いた。 重たいパックラフトを背負ってトレッキングするのは体力的にかなり負担になると思っていたが、ルート選択や風向き次第では有利な場合があったようだ。 また、ほんの少しルートを外れるとハット(小さな無人の山小屋)があり、そこで快適に仮眠したチームもいた。トレイルの無い深い森の中でそんな場所があるとは思わなかった。

そんな彼らの自由な戦い方を目の当たりにした後で改めてこの詩を読むと、道は本当に2つだけなのか?踏み均されているかどうかだけが判断基準なのか?と問いたくなる。 この詩の作者の意図は別のところにあるとは思うが、この詩をレース後に読んだことでアドベンチャーレーサーとしてのあり方を改めて考えさせられた。見かけの2択に惑わされることなく常に選択肢の奥の可能性や第3のルートを考える視野の広さと柔軟性が大切なのだ。
人生においてもそうだ。多くの人が選んだ道か、選ばれなかった道かではなく、私にしか選べない第3の可能性を検討してから選択したい。そう、ニュージーランドの深い森の中を縦横無尽に冒険する地元アドベンチャーレーサーのように。

所 幸子さん

著者:ジョージ/所 幸子TOKORO SACHIKO

100マイルの何倍もある超長距離トレイルレースを得意とするランナー。国内外のトレイルレースに挑戦する傍ら、2016年頃からは国内アドベンチャーレースにも参戦し始める。2022年にはイーストウインドのメンバー(通称ジョージ)として自身初となる海外アドベンチャーレースExpedition Oregonに挑戦し、完走を果たす。