
「駐車していた車両が盗難された」という報道やSNSへの書き込みを目にしない日はありません。希少車も、そうでない車も、オーナーにとっては大事な愛車ですが、昨年もまた、多くの車が盗まれてしまいました。日本損害保険協会と警視庁生活安全企画課が発表した資料から、どのような車が盗難の対象になっているのかを解説します。
1日15台以上の車が盗まれています
日本損害保険協会が2025年3月3日に発表した「第26回自動車盗難事故実態調査結果」1によると、2024年1月1日から12月31日の1年間で盗難された車両は合計で2499台となりました。しかし、この台数はあくまでも損害保険会社が車両本体の盗難に対して保証金を支払った件数で、車両保険未加入などの理由で保証金の請求がない場合はこの数字にはカウントされていません。
2024年(1月1日〜12月31日) | |||
順位 | 車名(車種) | 件数(台数) | 構成比 |
1 | ランドクルーザー | 688 | 27.5% |
2 | アルファード | 289 | 11.6% |
3 | プリウス | 235 | 9.4% |
4 | レクサスLX | 100 | 4.4% |
5 | レクサスRX | 89 | 3.6% |
6 | クラウン | 62 | 2.5% |
7 | ハイエース | 43 | 1.7% |
8 | ヴェルファイア | 38 | 1.5% |
9 | レクサスLS | 34 | 1.4% |
10 | ヴォクシー | 21 | 0.8% |
上位10車種合計 | 1,608 | 64.3% | |
その他の車種 | 891 | 35.7% | |
合計 | 2,499 | 100% |
なお、警察庁が発表している自動車盗発生件数を見てみると、2023年の認知件数2(警察が被害の届出や告訴、告発などにより発生を認知した事件の数)は年間5700台以上となっています。もちろんこちらの数字も発生件数ではないため、実数はさらに上がる可能性があります。(記事執筆時点では2024年の数字は未発表)
自動車盗難は2003年のピーク(64223件)から10分の1以下と大幅に減りましたが、それでも1日に15台以上もの車が盗まれていることになります。
75%は鍵がない状態
車両に鍵が付いていない状態で盗まれた台数は全体の75%にのぼります。駐車してオーナーが車から離れた状態で盗まれていますが、基本的に車にはイモビライザー等の機能が備わっているので、CANインベーダーやゲームボーイといったスマートキーの機能を悪用する専用ツールでの犯行と考えられます。
逆にいえば、4分の1は鍵がついた状態で盗まれていることになります。鍵をしていれば防げたかもしれません。やはり防犯の第一歩は施錠です。
やはり1位はダントツでランクル
盗難のターゲットになりやすい車種は、やはりダントツでランドクルーザー(プラドを含む)で、ここ数年ずっと1位になっています。2023年は400台を下回ったものの、2024年は688台と一気に台数が増えています。ランクル300の納車が進み始めたことや、ランクル250が新たにターゲットに加わったことが、件数増加の要因と言えるでしょう。再再販されたランクル70は、日本向けの割り当て台数が圧倒的に少ないためか、盗難に遭ったという声はまだ聞こえてきてはいません。
とはいえ、旧モデルの150プラドや、ランクル200や100など、ランクルと名がつくモデルは新旧問わずに盗難されており、今後も十分な警戒が必要です。
ハイエースは7位にランクイン
ハイエースも窃盗団に人気の車種であることは変わらず、2024年は7位にランクインしてしまいました。つい先日、茨城県警がハイエースばかりを盗んだ窃盗団を謙虚していましたが、このグループは主に北関東を中心に荒らし回り、盗み出したハイエースはなんと110台以上、被害金額は1億円相当にのぼるとされています。盗難されたハイエースはヤードに持ち込まれ、すぐに分解されてパーツとして国内や海外に散らばってしまうので、取り戻すのはかなり難しいと言わざるを得ません。
都道府県別では?
都道府県別ではどうでしょうか? 2024年は愛知県(515件)、埼玉県(357件)、千葉県(261件)、茨城県(185件)、5位神奈川県(179件)と並んでいます。なかでも1位の愛知は100件以上、埼玉県は80件、それぞれ昨年よりも増加しており、より一層の注意と対策が必要です。
2024年(1月1日〜12月31日) | |||
順位 | 都道府県名 | 支払件数 | 構成比 |
1 | 愛知県 | 515 | 20.6% |
2 | 埼玉県 | 357 | 14.3% |
3 | 千葉県 | 261 | 10.4% |
4 | 茨城県 | 185 | 7.4% |
5 | 神奈川県 | 179 | 7.2% |
6 | 大阪府 | 179 | 7.2% |
7 | 東京都 | 107 | 4.3% |
8 | 栃木県 | 107 | 4.3% |
9 | 群馬県 | 104 | 4.2% |
10 | 岐阜県 | 78 | 3.1% |
– | その他の県 | 427 | 17.1% |
合計 | 2,499 | 100% |
千葉や茨城、そして埼玉は、ヤードと呼ばれる工場が数多くあり、その中には無許可で運営されているところも存在しています。一部のヤードでは窃盗団の一員となって、盗んできた車をバラし、部品として転売したり輸出したりしているのが実情です。
防犯対策をしっかりとしましょう
どんなに防犯対策をしっかりとしていたとしても、絶対安全ということはないのが自動車盗難の実情です。では、対策をしても意味がないのでしょうか?
最大のポイントは「この車は厄介だと思わせること」
まず、「この車は盗むのに時間が掛かりそうだ」「持ち主が防犯対策しているから手間が掛かりそうだ」と思わせて、諦めさせるのが一番効果的です。諦めた窃盗団は別の車にターゲットを変えるだけではありますが。
何より、時間を掛けたくない、手軽に盗み出せる、次の日まで犯行が発覚しづらいというのが、彼らの心情です。時間や手間が掛かれば犯行がバレる可能性が高くなり、検挙されかねません。となると、警備が手薄な場所に停めてある、対策がしていなさそうな車がもっとも狙いやすいわけです。むしろ盗んでくださいと言っているようなものです。
自動車盗難の犯人が嫌がる防犯対策はコレ
ほとんどの場合、犯人は狙いをつけるために事前に下見をしているそうです。警備が手薄かどうかを調べているようで、防犯カメラに録画されている場合が多いとか。品定めをしている段階で、「この車は簡単だからイケる」と思わせないのがポイントです。
車でできること
盗難を防ぐ効果があるアイテムや、抑制効果のあるアイテムを取り付けることで、愛車を窃盗犯から守る可能性を高めましょう。
セキュリティシステムの導入もっとも効果的なのは、社外のセキュリティシステムをインストールすることです。車の情報通信を司るCANシステムに不正規にアクセスされても、エンジンが掛からないようなセキュリティシステムも発売されています。またスマホと連動させることで、セキュリティレベルをさらに高めるものもあります。
盗難防止アイテムの活用盗難防止アイテムは、目に付くところに「この車はセキュリティを付けています」と窃盗犯にアピールするものと、セキュリティの存在自体見つかりにくく、盗もうと思っても車が動かないという2種類があります。
前者は、ハンドルロックやタイヤロックといった、車の一部を固定するもので、すぐに窃盗犯から見えるものです。もう一つは、LEDセキュリティランプやステッカーなどで、セキュリティの存在をアピールするものです。
後者は、ブレーキロックペダルやCANガードなどで、一見するとセキュリティは付いていないようですが、実際には盗み出すまでに時間が掛かるというものです。
見た目でまずやる気を削ぐのが大事で、その後実際に手を付けても車が動かなかったり、エンジン始動までに時間が非常に掛かるような仕掛けを複数用意しておくのがオススメです。
自宅でできること
駐車場が併設されている一軒家に限りますが、ご自宅でもできる防犯対策がいくつかあります。愛車を守るだけでなく、同時に今流行りの闇バイト系犯罪の抑止効果も期待できます。
監視カメラ+警報装置窃盗犯からは手が届かず、目に付きやすい場所に監視カメラを設置しましょう。最近ではスマート化により、家庭の無線LANに組み込んでスマホで監視ができるアイテムも増えています。
また、警備会社と契約をして警報装置を取り付けることで、防犯レベルを引き上げることができます。
スマートキーの電波遮断鍵単体でできることとして、電波の遮断という方法があります。スマートキーは電波の届く範囲に自分の車があるときだけ解錠や施錠ができる仕組みなので、常に微弱な電波を出し続けています。それを逆手に取ったのが「リレーアタック」という盗難手法です。つまり電波を車から離れた時に発生させなければリレーアタックは使えません。
対策としては、電波遮断ができるキーケースを使うのがいいでしょう。自宅の場合は金属製の缶に入れておくという方法もあります。また、鍵自体に電波を発生させないようにする設定を持っているものもあります。
縦列駐車・壁に寄せて駐車縦に車を並べて駐車するという手もあります。もちろん盗まれていい車などありませんが、守りたい車を奥にしておけば、窃盗犯は手前の車をどかさなければいけません。定休日の自動車販売店が、入口を代車などで塞いでいるのと同じ方法です。2台以上車を所有していて、駐車場が並列ではないという場合にしか使えませんし、自分が出すときも手間はかかりますが、効果は期待できます。
もう一つは、壁などに寄せて駐車するという方法です。CANインベーダーは、対象となる車のタイヤハウスのインナーフェンダーを強引に外してヘッドライトのCANに機器をつなげるという手順で行われます。そこで、車を壁や塀などに寄せて駐車することで、犯人が作業するスペースがないという状況にできるというわけです。
マーキングを見逃さない窃盗犯は事前に下見をしていることが多いと書きましたが、下見をした家にマーキングをしていることがあるそうです。門柱の上に石が置いてあったり、文字通りマーカーなどで書き込みがあったりした場合は、目印の可能性があるので速攻で処理をしましょう。
その他の対策
これまで書いてきたような車自体や自宅の駐車場以外で、盗難される確率を下げられないでしょうか?
SNSに掲載しない窃盗犯はSNSなどでも情報を入手しています。「駐車場の様子をSNSでアップする=ここに車がある」と表明していることになります。地図情報を紐づけていなくても場所が特定できることがありますし、下見だけでは得られない情報を与えている可能性もあるので、特に自宅や愛車が停めてある駐車場の写真は掲載するのを避けましょう。
生活パターンを固定しないこれは車の盗難に限ったことではないのですが、例えば「朝7時に家を出て、夜19時頃に帰宅する」というように、日々の生活がパターン化していると不在の時間も把握される可能性があります。
入場に鍵が必要な駐車場に停めるアクセスするために別の鍵が必要な賃貸の駐車場を選ぶという手もあります。ビルなどの地下駐車場で賃貸をしている場合、該当するフロアの手前に施錠された入口を設置していたり、エレベーターが認証式になっていたりします。二重三重にセキュリティが掛かっているので、窃盗犯はまず手を出さないでしょう。
Xなどで【拡散希望】という形で盗まれた車両情報のポストを見ると、なんとも悲しい気持ちになります。皆さんも愛車を盗まれてしまわないように、盗難対策をご検討ください。