初期のランドクルーザーは機能からデザインが決められていました
クルマのデザインは販売を大きく左右します。そのため自動車メーカーでは大勢の才能あるデザイナーが線を引き、発売に至るまで多くの評価を受け、繰り返し磨かれた末にデザインが決められています。時にクルマの商品性によっては世界で活躍する著名なデザイナーやデザイン会社が活躍する場面もありますが、日本の自動車メーカーはほぼ自社内でデザインを決めているのが実情です。しかしながら、昔の日本にはカーデザイナーという立場のスタッフがいませんでした。特にランドクルーザーは主な市場が「世界の現場」でしたから、何より機能が第一でデザインは二の次。そのため初期のランドクルーザーのデザインはボディの設計者が考え、決めていたのです。のちに1960年代になるとランドクルーザーの開発グループにデザインを統括する部署が生まれ、デザイナーの仕事ぶりが注目されるようになりました。日本経済の柱となる自動車の輸出産業が本格的に動き出したその時代は、まさに高度経済成長の真っ只中。一家に一台のマイカーブームの中、デザイナーによって形を決められた最初のランドクルーザーとなったのは55型でした。ここでは開発テーマに「デザイン」という概念が加わったデザイン黎明期から現代に至るまでのランドクルーザーの形の成り立ちについて解説していきます。
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高度なプレス技術があってこそのランドクルーザーのボディデザイン
定規とコンパスで形ができたランドクルーザー40
1951年に誕生した初代ランドクルーザーから、20系を経て1960年に発売となる40系まで、ランドクルーザーの形はメカニズムを配置する過程で決められていました。エンジンやシャシー、タイヤの大きさなどに配慮してサイズが決められたシャシーがまず図面に描かれ、法規に照らしながら乗車人数や積載量に応じたボディのボリュームが決まり、そして生産性を考えながらボディの線が引かれたのです。CGなどのコンピューター技術がない時代、製図にはT型定規、雲型定規、コンパスが使われていました。この作業を担当したのは、トヨタからの委託を受けて試作ボディ等をほぼ手作業で仕上げていた荒川鈑金工業(現・トヨタ車体)でした。当時ランドクルーザーは小型トラックの一種だったことや、図面を引く道具が定規やコンパスしかなかったことから、当然のことのようにボディは直線基調となります。また当時はプレス技術が低かったため、手作業を必要とする部分は最小限にして平面の多いものにせざるをえませんでした。世界の市場で急速に拡大するランドクルーザーの需要に応じて大量生産を可能とするためにも複雑な形は避けられたのです。
機能からスタートしたが愛され続けたデザイン
そうした環境で生産されることになったランドクルーザー40にもわずかに曲線や曲面を持つパーツがありました。それはフロントフェンダーとハードトップ車のルーフ。ランドクルーザー20から受け継いだ曲面のフロントフェンダーは、製作に手間がかかるものの一般大衆にも受け入れられるやさしい形にしようとの設計者の願いを反映したものでした。また、ルーフは、現場の作業者がヘルメットをかぶっても天井につかえないように山のように膨らんでいます。これは湾曲が大きく面積が広いため、どうしてもプレス技術が追いつきません。そこで選ばれた素材はFRPでした。ランドクルーザー40は1960年に登場しましたが、荒川鈑金工業が荒川車体工業と名を変え1962年に新しい工場(吉原工場)ができてからは量産に弾みがつきます。大きなプレス機がなかった頃の初期のランドクルーザー40ではボンネットが左右別々のバーツをボルトで合わせたものでしたが、のちに一体となったのはプレス技術の発達(大型のプレス機を導入できたこと)を意味していたのです。しかしながら、ランドクルーザー40はランドクルーザー70に切り替わるまでホディの形はほとんど変わることはありませんでした。生産技術の発達が次第に速くなる中で、新しいプレス機が導入されたり、組み立て作業のプロセスが改善されたりして、生産速度が速くなりコストも落とすことができるようになっても形が変わらなかったのは、何よりその形が世界のファンに愛されたからでした。
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ランドクルーザーサイドストーリー/組み立て会社の社名変更と合併
ランドクルーザーは主に愛知県内の協力会社(サプライヤー)から集まる部品をもとに、シャシーをトヨタ自動車の本社工場で生産。ボディは荒川車体工業(現・トヨタ車体)が生産し、シャシーを加えて最終組み立てまでを請け負ってきました。レクサスを含めランドクルーザーのファミリーが増えた近年は分業化が進み、トヨタ自動車の田原工場(愛知県)や日野自動車の羽村工場(東京都)でも完成車をラインオフさせています。ランドクルーザー40が登場した当時のボディ設計&組み立ては荒川鈑金工業が行っていましたが、同社はのちに事業規模の拡大とともに荒川車体工業→アラコと社名を変え、2004年に車両事業がトヨタ車体に併合されて現在に至ります。そのため、現行のランドクルーザーのデザインはトヨタ自動車とトヨタ車体の共同作業で生まれています。
さまざまな視点からの歴代ランドクルーザーのデザイン解説
デザイナーが設計に関わりはじめたのはランドクルーザー55から
ランドクルーザー40が世界に浸透していった長い時代の後半から、ランドクルーザーにも乗用車の要素を積極的に盛り込んでいく必要が出てきました。しかし、ランドクルーザー40はワークホースとしてそのままのスタイルで作り続けなければなりません。そこで新たに開発されることになったのがランドクルーザー55です。その頃、自動車先進国の北米ではすでに、トラックやバンを改良して乗用車として使えるようにアレンジされたステーションワゴンが誕生していました。ランドクルーザー55のメインターゲットはもちろん北米です。ランドクルーザー55の開発では初めてデザイナーが加わりました。ランドクルーザーのたくましさをどのようにステーションワゴンというスタイルに落とし込むか。それがデザインを決める上での大きなテーマ。あらためてランドクルーザー55を眺めてみると、当時の技術レベルや作り手の苦労など様々な発見があります。ランドクルーザー40ではボディと独立していたフロントフェンダーは面影を残しながらもほぼ一体化。フロントフェンダーの高さでリアまで走る大胆なプレスラインは生産技術が高まったことの象徴です。長いルーフも大型のプレス機の導入を証明するもの。控えめながら上品なリップ状のオーバーフェンダーまで採用されました。しかしながら、ボンネットとリアゲートまわりの造形は設計担当者を大いに悩ませたといいます。ボンネットは前端の屈曲が大きく、しかもヘッドランプ上部の縁をめり込ませなければなりません。リアゲートは電動開閉式ウインドー内臓のあおり式としたタイプで、ウインドーの面がボディから奥まったデザインのため複雑で細かい面構成です。このデザインを実現する過程で、デザイナーと設計者の間には常に火花が散っていたようです。
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単純な線と面の構成でノックダウン対応のランドクルーザー70
ランドクルーザー55以降、トヨタのデザイン部門は大きくなり、仕事の領域を広げながらボディ設計担当など他部署との連携が深まっていきました。そして彼らデザイナーは、ランドクルーザー40からランドクルーザー70への切り替わりという大きな変革の時を迎えます。ランドクルーザー40が24年間も生産され愛され続けたのは、世界中のファンがデザインの変化を望まなかったことに一因があります。しかし、その間にボディ開発の技術は格段に向上し、新たに加わったデザイナーも大きく育っていました。ランドクルーザー40のデザインを現代風にどうやってアレンジするか。かくして1984年に登場したランドクルーザー70は意外にも直線や平面を強調する形となりました。プレス技術が低く手作業に頼る部分が多かった時代のランドクルーザー40よりも曲線や曲面は影をひそめることに。プレス技術が向上しているなら丸い造形も容易なはずなのに、ランドクルーザー70はなぜかシャープな印象でした。力強さやタフネスさをボディサイドの深いプレスラインで強調しています。ランドクルーザー70の時代では組み立て工場はすでにロボットが主役でした。溶接などもロボットによる自動化が進んでいましたが、ランドクルーザー70ではあえて手作業で組み立てる工程が残されます。それは輸出先の国によっては完成車状態ではなく、現地で組み上げるための半完成状態(KD:ノックダウン)で船積みすることが求められたから。ランドクルーザー70が直線と平面を多用したボディとしたのは、輸出先の国で容易に組み上げられるようにとの理由もあったのです。ノックダウンの目的は輸出先国によって様々ですが、ランドクルーザーの場合、現地での車両価格を抑えることが大きな目的だったのでしょう。日本での生産や輸送にかかるコストを抑えたり、相手国の関税を低くしたりすることで現地での価格を何とか抑えようと努力していたのです。
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形を似せつつプレスで新しさを強調したランドクルーザー90プラド
ランドクルーザーシリーズの中で、最も市場の反応に神経質になりながらデザインされたのが90プラドです。90プラドをはじめランドクルーザープラドは乗用車から乗り換えてもらうためのランドクルーザー・エントリーカーの役割を担っていました。貨物車のイメージを打ち破り、ユーザー層を広げることが一大使命です。しかしながらランドクルーザー70(バン)と多くを共有したことで、70プラドは古いイメージから脱皮しきれず人気は中途半端なものでした。そして1996年、ランドクルーザー90プラドは70プラドでの失敗を糧にして全面変更し、それまでベストセラー4WDとして君臨していた三菱パジェロを打ち負かすことに成功します。そんなランドクルーザー90プラドのデザインに込めたトヨタの意思は明確でした。ボディのアウトラインをパジェロに似せて、ディテールに新しいデザインを盛り込んだのです。売れているクルマに似せることは開発者にしてみれば屈辱的だったはずですが、それまでの敗北もあってトヨタは危ない橋を渡ることができませんでした。90プラドのボディデザインで特徴的なのは、ボディサイドの樹脂パネルと連続する大きな前後オーバーフェンダー、そしてフロントフェンダーからリアに走る三次元的な曲面を生み出したプレスラインです。オーバーフェンダーは力強さとともにパジェロに負けない存在感を放つためのもの。プレスラインは折り目に影を作ってスポーティ感を強調することに成功しています。
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史上初のヨーロッパデザインをまとった120プラド
90プラドは一気にプラドの名を世界に広めることに成功しましたが、それでもトヨタは満足しませんでした。なぜなら、90プラドが成功したと言える地域はオセアニアやアジアなど、それまでもランドクルーザーがたくさん売れていた市場ばかりだったからです。ランドクルーザー90プラドのような、サイズも車格もミドルクラスとなる4WDはヨーロッパで人気がありました。ヨーロッパにおけるランドクルーザープラドの認知度を高めながら販売をさらに伸ばしたい。この目的のために後継のランドクルーザー120プラドはヨーロッパでデザインすることになったのです。担当したのは1998年11月に南フランスのニースに設立されたToyota Europe Design Development(通称:EDスクエア)。ランドクルーザー史上初のヨーロッパデザインとなったランドクルーザー120プラドは、オーバーフェンダーの躍動感が際立つさらにスポーティなデザインとなり、線と面の構成には品格が与えられ、グレードアップしたかのようにスタイリッシュに変身を遂げました。同時に開発が進められた兄弟関係となるレクサスGXの存在も120プラドのイメージアップに拍車をかけました。
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現行のランドクルーザー200、150プラドは4WDらしい、たくましいデザイン
60年以上にわたるランドクルーザーの歴史をデザインというキーワードで区切るなら、ひたすら機能と耐久性を追求したランドクルーザー40までのワークホース時代、市場の裾野を広げることを目指したランドクルーザー80や90プラドまでの大衆化時代、そしてレクサスとの関係性の中でランドクルーザーらしさに立ち返ろうとする差別化時代の三つに分けられるでしょう。現代はもちろん差別化時代。大衆化の中で高級車となっていったランドクルーザーは一時期レクサスのデザインや仕様と寄り添うようにも見られましたが、現代のランドクルーザー200と150プラドになってからは高級感よりもたくましさを強調するようなデザインに戻っているように感じられます。どちらも高級車らしい上品なデザインですが、ランドクルーザーにはレクサスとは明らかに異なる4WDらしい方向性が見えています。そして今後デザインはどのように進化していくのでしょうか。ランドクルーザー200や150プラドの後継車がますます気になってしまいます。
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