高度化している車両盗難の手口
前回、車両の盗難件数についてお伝えしましたが、掲載後もSNSには多くの盗難情報や車両に対する悪質な行為が投稿されています。ニュースなどで取り上げられ社会問題化していますが、ここでは窃盗団がどのような手口で車両を盗難するのかを解説していきます。
昔はドアの鍵をこじ開けてキーシリンダーを無理やり回したり、配線を直結することでエンジンを掛けていましたが、鍵と車両が情報をやり取りし、正しい鍵でないとエンジンが始動しないイモビライザーと呼ばれる機構をもつスマートキーが採用されたことで、この物理的で強引な手口はほぼなくなりました。
ここ数年は、自動車メーカーが行った防犯対策を窃盗犯が破るという、いたちごっこが繰り返されています。実際にどのような手口が犯行に使われているのでしょうか?
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コードグラバー
このところ広まりつつあるのが「コードグラバー」です。これは本来スペアキーを作成する際に使用する器械を悪用する手口で、スマートキーが発している信号を受信して固有のIDを解析、そのコードを複製用のスマートキーに入れることで車両に正しい鍵だと認識させるというものです。正しいIDなので車両側も正常に認識します。当然ドアロックを解除し、エンジンも掛けられるということになります。その結果、警報も鳴らず、周囲に知られることなく車両を盗み出すことができてしまうというわけです。
鍵のクローンを作るという手法なので、本来であれば純正ディーラーなどが持っているべき機器なのですが、それが流出してしまったというケースや、サードパーティでコードグラビングできる機器も発売されていたりします。
参照サイト:https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-car-code-grabber/
CANインベーダー
車両の各部を電気的に結び、制御をしているのがCANと呼ばれる車載ネットワークの標準的なシステムです。このCANを悪用するのが「CANインベーダー」と呼ばれる手口。CANの配線に特殊な機器を割り込ませて純正のセキュリティシステムを解除し、キーが車内にある状態と誤認させることでエンジンを始動させるというものです。この手口は2017年頃から出回りはじめ、現在は車両盗難の主流となっているようです。
バンパーの一部を強引にずらして特殊な機器を装着することから、車両を注意深く見るとわかる可能性がありますが、セキュリティシステムによるサイレンの発砲などがなく、数分で作業が終わるので、自宅内の駐車場でも盗難されてしまうケースが多いようです。
リレーアタック
スマートキーが多くの車両に採用されてから、車両盗難の主流となったのが「リレーアタック」です。これは、スマートキーのロック時に発信される信号を運転者の近くにいる犯人Aが中継して犯人Bに送信、それを受けた犯人B→犯人Cとリレーして対象車両の鍵を開けるという手口です。信号が複数の人間を繋いでいくことから、この名前が付けられています。
スマートキーが一般的になってからは、このリレーアタックが盗難手口の主流になっていましたが、関わる人間が複数必要なことや、コードバスターやCANインベーダーなどの手口が開発されてからは下火になっているようです。
それ以外の窃盗犯の手口
このようなツールを使うだけではなく、車両盗難にはかなり荒っぽい手口が用いられることも少なくありません。
出先では、乗り逃げされる可能性があります。高速道路やコンビニなどの駐車場でクルマから離れた隙を狙われたり、路上で当たり屋の被害に遭い当事者と話している間にそのまま乗り逃げされるなど、一瞬の隙を狙われるケースが報告されています。また自宅の駐車場で暖気中を狙われたり、帰宅直後に乗り逃げされるということもあるようです。
いずれもクルマのキーが付いた状態であったり、エンジンが掛かった状態で盗難されています。件数としてはそれほど多くないようですが、オーナー自身が危険にさらされることもあり得ますので、注意が必要です。
狙われる車は事前に下見されています
前回お伝えしたとおり、窃盗団は車両の現金化が最終的な目標なので、売れない車両を盗もうとはしません。手離れがよく、高価で売却できる車両を探しています。盗難被害に遭った車種の上位に入るランクルやハイエースなどは国内外で高い需要があり、当然狙われる対象となります。窃盗団は場当たり的に犯行をするのではなく、対象となる車両に狙いを定めてやってくるので、必ずと言っていいほど事前に下見をしているようです。盗難される前に防犯カメラに記録されている場合も少なくないとか。
不特定多数の人物が出入りできる駐車場では、ワイパーに「クルマを売りませんか?」というチラシが挟まっている場合があります。すべてのものがそうだとは言いませんが、車両がどれくらい動いていないか、つまりチラシを挟んでから外されるまでの日数を見ているという場合もあります。ほとんど乗らない車両であれば、チラシはそのままの状態になるので、盗まれてもすぐに発覚しないこともあるでしょう。窃盗犯にとっては、盗みやすい車両という認識になるというわけです。
盗まれたクルマはどうなるのか?
一般的に車両盗難は発生してから3日間がもっとも重要な期間と言われます。窃盗団によって盗まれてしまった車両はどうなるのでしょうか?
一時的に放置
車両がコインパーキングや河川敷の駐車場などに放置される場合があります。これはセキュリティ用のGPSが付いているかどうかを判断するために置かれるようです。GPSを装着している車両は信号を手掛かりに車両の位置を特定することができるので、セキュリティ会社を経由して警察へと通報が行き、盗難車両として発見され、回収されます。
しかしGPS等が装着されていない場合は、一定期間(一晩程度)放置しても車両が回収されないため、窃盗団はまんまとその車両を手に入れることができるわけです。
つい先日、放置されていたトラックの中からスポーツカーが発見されたという報道がありましたが、これはGPSから自車位置を特定できたからです。窃盗団のスキルが高く、GPSが外されてしまう場合もあるようです。
ヤードで解体
盗難された車両はヤードと呼ばれる施設に運ばれ、解体されたり加工されることになります。ヤードとは、「周囲が鉄壁等で囲まれた作業所等であって、海外への輸出等を目的として、自動車等の保管・解体、コンテナ詰め等の作業のために使用していると認められる施設」のこと。もちろんすべてのヤード=車両盗難のアジトではありません。法律に則って車両の輸出を行っているヤードが一般的です。
車体番号などを偽装
車両には固有の番号が打刻されています。その部分を削り取って別の番号を打刻したり、正規の番号を周辺の鉄板ごと溶接して偽装するようなケースが報告されています。この他、いろいろな手段を使って盗難車両を別の車両に仕立て上げ、ナンバーを取得するようです。
車両や部品として輸出
上記のように不正手段によって車検を取得し、国内で流通させるだけでなく、海外へ輸出する場合も多くあります。アメリカでは発売から25年経過しないと正規販売されていない車両は輸入できないというルールがありますが、その期日が過ぎた車種の盗難件数が増えるという残念な結果を生んでいます。
コロナ禍により車両の輸出入がかなり制限されてきましたが、ロシア向けを除いて回復傾向にありますので、万が一被害にあった場合は警察や保険会社に加えて税関への通報をオススメします。
狙われると高確率で盗まれてしまう
一度狙われると、高確率でやられてしまうのが車両盗難。しっかりと鍵をしたうえにセキュリティをしていても、窃盗犯はあの手この手で盗んでいくのが実情です。盗まれてしまっても、警察はあまり動いてくれないという話も耳にします。そうなると、やはり自衛するしか愛車を守るしか方法はなさそうです。具体的な自衛の手段については次の記事で紹介したいと思いますが、車両保険に加入したり、セキュリティを追加するなど、想定できることはしっかりと対策しておくことを強くオススメします。
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